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2007年07月30日

象との夏。 あるいは、スウィート・ホーム・アラバマ

 
 
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冷蔵庫から出したばかりのビールを開けて、ラジオをつけると、DJ がレイナード・スキナードを紹介していた。
 
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「ビールが美味い季節になってきたね」 と僕が言った。

「まぁ、僕の故郷では年中こんな感じさ」 と象は教えてくれた。

「夏が来ると、故郷が恋しくなったりしないかい?」

「年中、恋しいさ。でも、ここでこうやっているのも悪くはないよ。
暑い夏が来てビールを飲んだら、どこにいても君は僕のことを思い出してくれるだろう?
もし僕が忘れられて箪笥の隙間に落っこちて埃だらけになっていても、
きっと君は僕を思い出して、一所懸命探して見つけ出してくれるはずさ。
そうして、また一緒にビールを飲んでくれるだろうからね」

「もちろんだよ。君は僕の夏の一部だからね」

僕はそう言って乾杯し、ラジオから流れてくる「スウィート・ホーム・アラバマ」にあわせて歌った。

網戸越しに入ってきた風が部屋のカーテンを揺らした。

扇風機はゆっくりと夏の空気をかき混ぜていた。
 
 
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2007年07月24日

最高の夏のランチ、あるいは、カリフォルニア・ガール



 
 
その年の僕の夏は、デイヴ・リー・ロスの歌う「カリフォルニア・ガール」で始まった。

僕は、単位を 2 つだけ残して留年していて、週に 1 回大学に行けばいいだけ、という暮らしを半年していた。仕送りを止められていたので、なるべくお金を使わないように、授業や演奏のアルバイトのない日は、あまり出歩かないようにしていた。

僕が下宿していたアパートはとても家賃が安いのにしっかりした 2 階建ての鉄筋のアパートで、目の前には田んぼが広がっていて、とても見晴らしが良かった。
しかも、手すりの付いたしっかりした屋上があった。

僕は、朝起きると、屋上に折りたたみのサマーベッドを出して、寝転んで本を読んだ。青々とした田んぼをわたって来る風に吹かれながら、アパートの屋上でベッドに寝転んで読書をすると、なんとも言えない贅沢な気分になれた。

蝉の声のボリュームが大きくなって、腹が減ってきたら、屋上から降りてきて 1 階にある洗濯機のホースを外して水浴びした。ほとんど人も通らないし、目の前は田んぼだし、誰にも気兼ねしなくてよかった。

僕は、濡れた服を着たまま、つま先歩きで部屋に入って、タオルを取り、冷蔵庫から“貴重な”缶ビールを 1 本とスーパーの安売りで纏め買いしたソーセージを出して屋上に上がり、サマーベッドに座って、T シャツと短パンを自然乾燥させながら、“いつもの”簡単なランチにした。

僕の頭の中では、「カリフォルニア・ガール」がエンドレスでぐるぐると回っていた。

それは、今思い出しても、最高の夏のランチだった。
 
 
 
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2007年07月16日

君と歩いた夜道の街灯と、君が教えてくれたこと



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僕たちはあまり外食をしないほうだったけど、夏の夜にはたまに地酒を出す居酒屋にも行ったりした。

居酒屋の帰りはいつも、少し涼しくなった風に当たりながら、人がいなくなった古い商店街をテクテク歩いた。

まばらにある街灯の古い蛍光灯は随分頼りなさげだったけど、僕は君とこの夜道を歩くのが好きだった。コインランドリーの大きなガラス戸の光でさえ、とても優しく涼やかに感じた。

電信柱にかかっている変わった看板を僕が不思議そうに見ていたら、

「それはね、仲人をやっているお店なのよ。ここではそういう風に言うの。」

と君は教えてくれた。

君は他にもいろいろなことを教えてくれた。
仕事のこと、会社への往き帰りに出会った人たちのこと、会社の裏の隙間に住む野良猫のこと。
夜道で君が教えてくれることのひとつひとつが僕にとっては宇宙の一大法則だった。

僕は夜道を歩きながら、よく空を眺めた。
狭い路地から覗く、狭い夜空には星がぴかぴかと光っていた。

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どうして僕はこんなことを思い出すのだろう。

今でも僕の頭上には星が光っているのに。

どうして僕はこんな気持ちになるんだろう。
 
どうして僕は今ここにいるんだろう。

 
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2007年07月14日

土曜日の午後のカレー



土曜日のお昼は、ゆっくり起きよう。
二人で、すこし、ぼうっとする。

「食べに出るのも面倒くさいから、昨日のカレーを二人で分けっこしようか。」

って言って、カレーの入ったお鍋をコンロで温める。
それだけでもう、部屋中がカレーの匂いでいっぱいさ。

「おなかすいたねー。」

君はご飯を待つネコのように、後ろ向きにソファの背もたれから顔だけ出して、
カレーが焦げ付いてしまわないように一所懸命ぐるぐるかき混ぜてる僕を見てる。

「さぁ、できたよ。」

お鍋の底をごりごりとこすりながら、
2日間でたっぷり煮詰まったカレーをすくって、温かいご飯にかけるんだ。

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土曜日の午後のカレーは、そんな感じが希望です。
でも、いつも、ルウがちょっと足りないんだよね(笑)
 
 
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2007年07月07日

Blackbird とラナンキュラスと夜の記憶について





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「あなたはそろそろ“終わり”になりますね。」

玄関を開けると、そこに立っていた彼女がそう言った。
彼女とは面識がなかったが、きっとそういう役割なのだろう。

「そうなんですか。“終わり”はいつ頃なのですか?」
「はっきりとは言えませんが、もうすぐです。」
「そうですか。もう少し早かったら丁度良かったんですけどね。そうだなぁ、昨年の春頃なら一番よかったかな。」

彼女は、僕が残念そうな顔をしているのが気になったのだろう。

「ご希望に沿えず申し訳ありませんが、決まっていることですので。」

そう言って、視線を落とした。

「いえ、いいんですよ。まぁ、今でも悪くはないし。それに・・・」
「それに?」
「それにあなたのせいじゃない。」

彼女のせいなのかどうかは分からなかったけど、気にさせるのが悪かったのでついそう言ってしまった。

「では、いろいろとご用事もおありでしょうから、私はこれで失礼いたします。」

彼女は視線を上げて僕を見ると、そう言って帰っていった。

 ・・・

僕はドアを閉めて、部屋に戻り、コーヒーを1杯分落としてカップに移した。

原稿の締切が終ったところだったし、取り立ててしておかないといけないことは思い浮かばなかった。とりあえず、クライアントにしばらく仕事が請けられなくなることをメールに書いて送った。

コーヒーを飲み終わってしまうと、僕はやることがなくなってしまった。

日頃の癖でシャワーをして、ベランダに出た。
夜空を眺めていると、どうしても最後に話をしたくなったので電話をかけた。

呼び出し音はとても長いように感じたし、受話器から聞こえる声はとても平板な気がしたけど、気のせいかもしれない。

「そろそろ僕は終わりなんだそうだよ。」
「そうなんだ。残念だね。」
「君が悲しんでくれるうちに終わりになれば良かったんだけどなぁ。」
「でも、それはあなたが選んだことだから仕方ないわ。」
「そうだね、君の言うとおりだ。」

もうそれ以上何も言うことがなかった。

「それじゃあ、さようなら。」
「うん、さようなら。」

簡単なお別れの挨拶をして僕らは電話を切った。


特に理由はなかったが、電話に保存されている住所録と発着信履歴とメールをすべて消した。もう電話を使うこともないだろう。
そうしてしまうと、とても身軽になった気がした。

僕は部屋に入り、メモパッドから用紙を 1 枚、丁寧に切り取った。

いつも使っている“馴染み”のボールペンのインクがちゃんと出るのを確認するために、雑誌の裏にぐるぐると丸を描いた。

そして、僕はこれまで書いたどの文字より丁寧にメモ用紙に書いた。

「ありがとう」

メモに最初に気付いてくれた人へのメッセージになればいいな、と思いながら、テレビの前のいつも使っている小さなテーブルの上にメモを置いて、メモが飛ばないようにラナンキュラスの一輪挿しをメモの隅に置いた。

僕は部屋の明かりを消して、横になった。


遠くの方で誰かが「Blackbird」を口ずさんでいるのが聴こえたような気がした。

 


 


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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2007年07月04日

アイスコーヒーによって導かれる記憶の輪郭について


 
 
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どうしてもアイスコーヒーが飲みたくなったので、切らしていた豆を買出しに出た。
家に戻った僕はコーヒー豆を挽いて落とし、氷を一杯入れた銅のマグカップに注いだ。
氷がカップの中で「ちりちり」と音を立てて解けた。


アイスコーヒーを三分の一くらい飲んでから、僕は床に寝転がり、目を閉じて、あの年の夏を思い出していた。

光はどこまでも白くて、空はどこまでも青くて、君はどこまでも素敵だった。

こうしていると、目を開けたら隣に君がいて、凍らせたタオルを僕の額にあてて、「気持ちいいでしょ?」って笑っているんじゃないか、って思えるくらいに今でもはっきりとした輪郭を持って戻ってくる。


少し風が出てきたのかな。
レースのカーテンがさらさらと音を立ててるのが聞こえる。

網戸越しに入ってくる風は、少し夕立の匂いがした。
 
 


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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

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