まえがき

みなさん、はじめまして。
はじめまして、ではない人も多いかもしれませんね。

僕は、「土曜日、公園にて」というブログをやっているのですが、そこでは、普通の日記とともに不定期的に “お話” を書いています。
そこに載せた “お話” は書いた後も見直して書き直したりしているのですが、見直し後の “お話” の発表の機会がなく少し不憫に思っていました。

そこで、“お話” だけを集めたブログを作ることにしました。
それが、この “lost + found (ロスト・アンド・ファウンド)” です。
ここに載せる “お話” は、「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。
そのままの転記するものもありますが、少しずつ見直して書き直したものが多いです。

最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期に掲載しています。よろしければこちらの方も見ていただければ喜びます :-)

それでは、これからもよろしくお願いします。
  
※※

この「まえがき」へのスパム コメントが増えてきたため、この日の日記のみコメントを受け付けないようにしました。コメントいただける場合は、お手数ですが、他の日の日記、または、「土曜日、公園にて」 ブログの方にコメントいただければと思います。

2010年01月30日

一番星、黒猫、および、僕



その日、僕は黒猫と一緒に、とぼとぼと日暮れ時の道を歩いていた。
いつもの駐車場をショートカットする道だ。

  ・・・

「一番星。」

僕は、一番星を見つけて、しばらく立ち止まっていた。

「あんなに近く見えるけど、本当はすっごい遠いところにあるんだぜ。」

黒猫は退屈そうに前足を舐めながらそう言った。

「うん、しってる。」
「宝石と違って掌に載せたりすることもできないんだ。」
「うん、それもしってる。」
「じゃあ、なんでそんなに嬉しそうにしているんだい?」

  ・・・

黒猫はしばらくじっとしていたけど、駐車場の隣の石垣を駆け上がって垣根の向こうに消えていった。垣根をくぐるとき、ちら、とこちらを見たけど、何も言わずにそのまま帰っていった。
まだ、僕は一人でじっとしていた。

「あんたの人生だ。あんたの好きにするがいいさ。」

黒猫がどこかでそう言ってるような気がした。

  ・・・

「僕は一番星を見つけたことが嬉しいんだよ。」

僕は、荷物を持って歩き始めることにした。
僕にだってまだできることはあるさ。
君だってそう思うだろう?

僕はダウンのジッパーを一番上まで上げて、急に冷たくなった風が入らないようにして早足で歩いた。

空はどんどん暗くなり、一番星はもっとはっきり見えるようになった。

二番目の星はまだ見えない。


  ・・・

※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年11月24日

静かの海




ずいぶん寒くなりましたね。

今日は月がきれいです。
静かの海ではもっと寒いでしょうね。
風邪などひいていませんか?

  ・・・

あなたの言葉ひとつひとつが、僕にとってはとても大切なものでした。
もらった言葉に傷がついたり、無くなったりしないように、僕の中にあるやわらかな布地でできた袋にひとつひとつしまって、今も大切にしています。

  ・・・

今日はとても月がきれいです。

風邪などひかぬよう、気を付けてください。

それでは、また。

2009年11月11日

でこぼこ



僕たちはどちらかと言えば外出するより部屋にいる方を好んでいたので、週末はいつも部屋でごろごろしていた。だから、近所のお散歩が休みの日の僕たちの最大のイベントだった。

お散歩といっても、近所をぶらぶらして、写真を撮り、公園でノラネコとハトを見ながら自販機で買った飲み物を飲むくらいだったけど、それだけでとても満たされた気持ちになれた。
僕らは近所を一通りパトロールし終わると、いつも公園の入り口にある自販機で飲み物を買った。

  ・・・

僕がポケットから小銭を出して自販機に入れていると、それを見て君が言った。

「いつも思うんだけど、ちょうどの金額しか持ってこないの?」
「うん。だって邪魔だもん。」
「もし、受け付けてくれないコインがあったらどうするの?」
「ほんとだね!」

僕が感心してそういうと、君はあきれ笑いをしながら、なにそれ、と言った。

「あなたって、すごく良く考えていることもあるのに、びっくりするくらい何も考えていないところもあるよね。」

僕は、照れ笑いをしながら、温かい烏龍茶のペットボトルを取り出し口から出してキャップを開け、君に渡した。君は、ありがとう、と言ってから、僕をじっと見て言った。

「あなたって、本当にでこぼこよね。」

  ・・・

僕たちは公園に続く小経を縦に並んで歩いた。

でごぼこで、いびつな形の僕は、躓かないように注意しながら、君と青空と茶色くなった葉っぱが少しだけ残る公園の木を順番に見ながら、歩いた。

さっきまで真っ青だった空には、少しだけすじ雲がかかっていた。

僕たちの秋は、そうやって少しずつ冬に向かって進んでいた。

その冬は、最後の “いつもどおりの冬” になった。

  ・・・
 

※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年10月23日

僕たちの真実




  ・・・

君の古い記憶が、真実かどうかは、僕には分からない。

街外れにある図書館に行って、司書のねずみに訊いてみるといいかもしれない。
その図書館には世界中の記憶が全部載っている古い本があるそうだから。

その本から、君の古い記憶を小さな小瓶に写し取ったら、川沿いに歩いてゆこう。
河が海につながるところまで来たら、小瓶を開けて流すんだよ。

君の古い記憶は、さら、さら、と静かに海に消えていく。

君の記憶や、君の真実は、海の中で薄く薄く、広く広く、でも確実に広がってゆく。
魚や海亀や鯨は、君の記憶を共有するんだ。

そうして、君は回復してゆく。
きっとね。
  
  
  ・・・


※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年09月27日

暑い夏の終わりに。



  ・・・

とても暑い日だった。
僕は車をパーキングロットに停めて、大通りに繋がる細い路地を歩いていた。

晴れた日にこの路地を上を見ながら歩くのが僕は好きだ。
路地では両端のビルの形に合わせて細長くなっていた空が、大通りに出た瞬間に開放される。

周りの空気が薄くなったような気がするほど爽快で広い空。

「この景色を見たら、君はなんて言うだろう?」

今はその答えは聞けない。
でも、君は僕と同じ宇宙に今も存在してくれている。
今は無理でも、また聞けるかもしれない。
それだけで充分だ。

  ・・・

僕は、街路樹の影に入って、信号が青に変わるのを待っている。

ふと、信号の向こう側で、僕を見つけた君が大きく手を振っているのが見えるような気がして、僕は頭の中が真っ白になった。

信号は青に変わったけど、僕は立ちすくんでいた。

僕は暑い夏の終わりに放り出されたまま、動けずにいた。


  ・・・

※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年09月06日

君と歩いた夜道の街灯と、君が教えてくれたこと



  ・・・

僕たちはあまり外食をしないほうだったけど、夏の夜には地酒を出す居酒屋にも行ったりした。

居酒屋の帰りはいつも、少し涼しくなった風に当たりながら、人がいなくなった古い商店街をテクテク歩いた。

まばらにある街灯の古い蛍光灯は随分頼りなさげだったけど、僕は君とこの夜道を歩くのが好きだった。コインランドリーの大きなガラス戸の光でさえ、とても優しく涼やかに感じた。

電信柱にかかっている変わった看板を僕が不思議そうに見ていたら、

「それはね、仲人をやっているお店なのよ。ここではそういう風に言うの。」

と君は教えてくれた。

君は他にもいろいろなことを教えてくれた。
仕事のこと、会社への往き帰りに出会った人たちのこと、会社の裏の隙間に住む野良猫のこと。
夜道で君が教えてくれることのひとつひとつが僕にとっては宇宙の一大法則だった。

僕は夜道を歩きながら、よく空を眺めた。
狭い路地から覗く、狭い夜空には星がポツポツと光っていた。

  ・・・

どうして僕はこんなことを思い出すのだろう。
今でも僕の頭上には星が光っているのに。
どうして僕はこんな気持ちになるんだろう。
 
どうして僕は今ここにいるんだろう。
  
  ・・・

※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年08月05日

ドーナッツ



  ・・・

そうだ、一緒にドーナッツ屋さんに行こうよ。

コーヒーを飲んで、二人でドーナッツを食べよう。
 
君はピーナッツクランチ、僕はシナモン。
 
一口かじったドーナッツを顔の前に持ってきて、じっと眺めてる君を見て、僕が言う。

「今、『ドーナツが丸くてホントに良かった』とか言おうとしたでしょ」

「まぁ、そんなところね。どうして?」

「なんとなく、わかるんだ。」

「変な人。」

君はそういってから、僕を見て

「でもね、ドーナツが丸くなかったら、世界も違っていたと思うのよ。」

と言う。

「わかるよ。そういう風に考えるところも好きなんだ。」

僕がそういうと、君は笑いながら、

「私も変だけど、あなたはやっぱり相当変だわ。」

と言う。やっぱり、君の笑顔は素敵だな、と僕は思う。

そういう感じのドーナッツ屋さんが僕は好きです。


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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年07月27日

アイスコーヒーによって導かれる記憶の輪郭について


 
 
  ・・・

どうしてもアイスコーヒーが飲みたくなったので、切らしていた豆を買出しに出た。
家に戻った僕はコーヒー豆を挽いて落とし、氷を一杯入れた銅のマグカップに注いだ。
氷がカップの中で「ちりちり」と音を立てて解けた。


アイスコーヒーを三分の一くらい飲んでから、僕は床に寝転がり、目を閉じて、あの年の夏を思い出していた。

光はどこまでも白くて、空はどこまでも青くて、君はどこまでも素敵だった。

こうしていると、目を開けたら隣に君がいて、凍らせたタオルを僕の額にあてて、「気持ちいいでしょ?」って笑っているんじゃないか、って思えるくらいに今でもはっきりとした輪郭を持って戻ってくる。


少し風が出てきたのかな。
レースのカーテンがさらさらと音を立ててるのが聞こえる。

網戸越しに入ってくる風は、少し夕立の匂いがした。
  

  ・・・

※ このブログは「土曜日、公園にて」に以前掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年07月26日

最高の夏のランチ、あるいは、カリフォルニア・ガール



 
 
その年の僕の夏は、デイヴ・リー・ロスの歌う「カリフォルニア・ガール」で始まった。

僕は、単位を 2 つだけ残して留年していて、週に 1 回大学に行けばいいだけ、という暮らしを半年していた。仕送りを止められていたので、なるべくお金を使わないように、授業や演奏のアルバイトのない日は、あまり出歩かないようにしていた。

僕が下宿していたアパートはとても家賃が安いのにしっかりした 2 階建ての鉄筋のアパートで、目の前には田んぼが広がっていて、とても見晴らしが良かった。
しかも、手すりの付いたしっかりした屋上があった。

僕は、朝起きると、屋上に折りたたみのサマーベッドを出して、寝転んで本を読んだ。青々とした田んぼをわたって来る風に吹かれながら、アパートの屋上でベッドに寝転んで読書をすると、なんとも言えない贅沢な気分になれた。

蝉の声のボリュームが大きくなって、腹が減ってきたら、屋上から降りてきて 1 階にある洗濯機のホースを外して水浴びした。ほとんど人も通らないし、目の前は田んぼだし、誰にも気兼ねしなくてよかった。

僕は、濡れた服を着たまま、つま先歩きで部屋に入って、タオルを取り、冷蔵庫から“貴重な”缶ビールを 1 本とスーパーの安売りで纏め買いしたソーセージを出して屋上に上がり、サマーベッドに座って、T シャツと短パンを自然乾燥させながら、“いつもの”簡単なランチにした。

僕の頭の中では、「カリフォルニア・ガール」がエンドレスでぐるぐると回っていた。

それは、今思い出しても、最高の夏のランチだった。
  
 

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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

象との夏。 あるいは、スウィート・ホーム・アラバマ

 
 
 
「ビールが美味い季節になってきたね」 と僕が言った。

「まぁ、僕の故郷では年中こんな感じさ」 と象は教えてくれた。

「夏が来ると、故郷が恋しくなったりしないかい?」

「年中、恋しいさ。でも、ここでこうやっているのも悪くはないよ。
暑い夏が来てビールを飲んだら、どこにいても君は僕のことを思い出してくれるだろう?
もし僕が忘れられて箪笥の隙間に落っこちて埃だらけになっていても、
きっと君は僕を思い出して、一所懸命探して見つけ出してくれるはずさ。
そうして、また一緒にビールを飲んでくれるだろうからね」

「もちろんだよ。君は僕の夏の一部だからね」

僕はそう言って乾杯し、ラジオから流れてくるレイナード・スキナードの「スウィート・ホーム・アラバマ」にあわせて歌った。

網戸越しに入ってきた風が部屋のカーテンを揺らした。

扇風機はゆっくりと夏の空気をかき混ぜていた。
 
 
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。





作者 “hirobot” について



音楽と写真とモータースポーツを愛する翻訳屋です。




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