まえがき

みなさん、はじめまして。
はじめまして、ではない人も多いかもしれませんね。

僕は、「土曜日、公園にて」というブログをやっているのですが、そこでは、普通の日記とともに不定期的に “お話” を書いています。

そこに載せた “お話” は書いた後も見直して書き直したりしているのですが、見直し後の “お話” の発表の機会がなく少し不憫に思っていました (笑)

そこで、“お話” だけを集めたブログを作ることにしました。
それが、この “lost + found (ロスト・アンド・ファウンド)” です。
ここに載せる “お話” は、、「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。
そのままの転記するものもありますが、少しずつ見直して書き直したものが多いです。

最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期に掲載しています。よろしければこちらの方も見ていただければ喜びます :-)

それでは、これからもよろしくお願いします。
  
※※

この「まえがき」へのスパム コメントが増えてきたため、この日の日記のみコメントを受け付けないようにしました。コメントいただける場合は、お手数ですが、他の日の日記、または、「土曜日、公園にて」 ブログの方にコメントいただければと思います。

2009年06月08日

上昇気流



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入梅 (つゆいり) 前のからっと晴れた日に T シャツを干すことくらい気持ちの良いことって他にあるかな?

  ・・・

入梅前の晴れた金曜日、僕は君が会社に行くのを見送ってから、部屋の窓とカーテンを全開にして、洗濯機に洗濯物を放り込んだ。

コーヒーメーカーでコーヒーを落としながら、仕事の準備をする。
公園の上を通り抜けた風が勢いよく部屋の中に入ってきた。

  ・・・

洗濯物を干し終わってから、僕は落としたてのコーヒーで作ったアイスコーヒーを持ってベランダに出て、ぼんやり外を眺めた。

「ちりん、ちりん。」

自転車のベルの音が小さな音で聞こえてきた。
下を見ると、公園に植えられた楠の幹の隙間から、公園沿いの道をゆっくり走っていく自転車が見えた。

時折、少し強い風が吹いて、洗濯物がひらひらとなびき、かすかに洗剤の匂いが周りに漂った。
僕はパリッと乾いた T シャツを想像し、君と二人で T シャツをひとつひとつたたんでクローゼットにしまうところを想像して、幸せな気持ちになった。

空は、これからもずっとこんな気持ちでいられることを約束してくれているかのように気持ちよく晴れていた。
遠くでトンビがサーマルを捕まえて気持ちよさそうに、くるっくるっと回っていた。

  ・・・

結局、その約束は守られないことを知ったのは、その少し後だった。
 
 

2009年05月15日

ある晴れた春の日の午後について




  ・・・
 
その年の春の晴れた日の午後、免許を取り立ての小僧だった僕は、知り合いの自動車工場から譲ってもらったボロボロのニッサン スカイラインをドライブして、国道 8 号線を西に向かっていた。

FM ではヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」が流れていた。

何の根拠もなく、やがて来る未来には明るい日々が待っていると、多くの人が信じていた時代だったし、僕もそう思っていた。

国道8号線は、西へ西へとまっすぐ続いていく。

僕は、車の窓をフルオープンにして、お世辞にもハイフィデリティとは言えないカーステレオの音量を上げて、デイヴ・リー・ロスと一緒に歌った。

「ジャンプ!」

国道沿いに広がる畑から、時折ひばりが飛び立つのが見えた。
耳を澄ませば、レンゲにとまる蜂の羽音まで聞こえてきそうな、のどかな午後だった。

そうして、僕は1つ歳を取った。
 
 
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年05月01日

晴れた休みの日には



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晴れた休みの日は、いつものように公園に行こう。

お財布と帽子とカメラを持ったら準備完了。
服なんて適当でいいよ。

ドアを開けると、乾いた風がふわっと部屋を吹き抜ける。

「きもちいいねー。」

君は目を細めながら、外を見て言う。
外は初夏の明るさだけど、風にはまだ冷たい空気が混じってる。

ひんやりした廊下でなかなか来ないエレベーターを待つ時間も、君とこうしていられるだけで特別気持ち良く感じる。

「どうしてそんなににこにこしているの?」

君は不思議そうに言う。

「エレベーターを待っているのが楽しいから。」

僕がそういうと、「あなたはほんとに変な人」と言って君は笑う。

「わたしね、あなたの笑顔を見るのが好き。とても優しい気持ちになれるの。」

君は少し考えてから、そう言った。

廊下から見る空はとても明るくて、このまま飛び立てるような錯覚に陥りそうになる。街路樹の影は昨日より少し短く濃くなっているような気がした。

エレベータの階数表示がもうすぐ僕らの階に到着することを知らせている。
僕が映画の中に住んでいて今がエンディングなら、どれだけいいだろう、と思った。


  ・・・

あれから、僕はあのエレベーターには乗っていない。
あのエレベータは今も誰かを運んでいるのだろうか。
あの廊下に吹く風は今もひんやりしているのかな。
  
  
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年04月29日

理想的なゴールデンウィークとは





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その年のゴールデンウィークが、僕たちにとっての最初のゴールデンウィークだった。

僕たちは、ドライブに行く予定を立てたのだけど、ひどい渋滞に巻き込まれ、結局、途中で帰ってくる羽目になった。
それから僕たちはどこに行くのもあきらめて、部屋で映画を見たり、散歩に出たりして過ごすことにした。

ヴィデオのレンタルショップまで、僕たちはいつも通る表通りではなく、1つ入った裏通りをぶらぶら歩くことにした。

まったく普通の、どうってことない路地だ。
一人で歩いていたら、なんと言うこともなく通り過ぎてしまうところだけど、二人で歩くといろんな発見があった。

僕たちは路地にあるいろんなものを写真に撮り、こっちの方から撮った方が良いだの、もっと近づいた方が良いだの、と言いながら、ぶらぶら歩いた。
途中ですずめの変な鳴き声に大笑いし、風変わりな店の看板を見て勝手に商売の内容を創作したりした。

帰り道、僕たちはコンビニエンスストアでコロッケを買い、近くの公園で並んで座って食べた。僕たちは、公園にいる鳩の行動を観察し、臆病なカラスと物怖じしない野良猫の対決を観戦した。

少しはなれたところで、親子がキャッチボールをしていた。遠くから微かにセスナ機のプロペラの音がする。

  「あ、風船。」

君が指差す方向を見ると、遠く小さく、たくさんの風船が空に吸い込まれていくのが見えた。

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晴れた穏やかな風の吹く休日。

こんな時間がいつまで続くのか分からなかったけど、僕たちは(少なくとも僕は)、この時間がずっと続くように祈っていた。
 
  
  
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年04月12日

しまっていこー



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「しまっていこー」

こんな晴れた春の日は野球がしたくなる。

遠くで、昼のチャイムがなってる。
風は少し甘くて不透明な匂いがした。

 


 
  
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年04月09日

きみといること



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君といることは、僕の中の穴ぼこを埋めること。

君といることは、僕の中のずっと弾かれていなかった絃を奏でること。

君といることは、僕の涙がやってくるところを一緒に探すこと。

僕はそうやって、君の中の穴ぼこを埋めてあげたい。

僕はそうやって、君の中のずっと弾かれていなかった絃を奏でたい。

僕はそうやって、君の涙がやってくるところを一緒に探したい。

それが僕にとって、君といることの意味。

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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年04月01日

晴れた休みの日と、装置としてのカメラと、君について



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「今日は本当に良い天気ね。」

君はそう言って、カメラという装置で僕らの上に広がる空気を透き通ったガラスの箱に、どんどん詰めていった。

カシャリ

ガラスの箱に空気をひとつ詰めるたびに、君はガラスの箱を光にかざして検査し、大事そうに木箱にひとつひとつしまっていく。

こんな良く晴れた日に、その作業をする君を眺めているのが僕は大好きだ。

  ・・・

時折、君はガラスの箱をひとつ持って僕のところにやってきてこう言う。

「ねぇ、これ、イイと思わない?」

僕は、

「君の撮る “空気” は世界一素敵だよ。」

という。君は、

「私はあなたに褒められるのが一番嬉しい。」

と笑って、また、透明な四角いガラスの箱に空気を閉じ込め始める。

僕は、君の持ってきたガラスの箱を太陽にかざしてみた。
その中には、空気と一緒に君の体温も閉じ込められているような気がした。

僕はどこまでも青く透き通った空を見ながら、僕たちは真空の宇宙の中にぽつんと浮かんだ星の上にほんの一瞬存在しているだけなんだ、ということを実感した。

とても良く晴れた春の一日だった。

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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年03月26日

晴れ、ベンチ、そしてギター。




晴れてとても気持ちのいい日だったので、午後仕事を少し休んで、ビールとギターを持って庭に出た。

ベンチに座って見上げると、空と雲が最良のバランスで混ざっていた。
僕はビールを開けて一口飲んだ。

ピスタチオもなかったし、隣に君もいなかった。
僕は小さなラジカセの代わりに、ギターを弾いて口笛で「Saturday In The Park」を吹いた。

あの年の春の匂いがした。
 

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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年03月19日

サクラの風の頃に



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道路に面した側の窓を開けた。
ひんやりとした空気が入ってきて、部屋の中の空気が入れ替わるのが分かる。

缶ビールを 3 本開けたところで、彼は僕に言った。

「僕は自分のことを、思いやりのある人間だと思っていた。とんでもない思い上がりだ。『いつかは分かってくれる。その方が相手のため』 だなんて、自分の考えが正しくて相手の考えより優っている、ということが前提だからね。ホント、とんでもない話だよ。」

僕は黙って聞いていた。彼は続けた。

「結局のところ、面倒な悩み事を切り捨てて、自分が幸せになりたいだけなんだよ。僕はそういう人間なんだ。自分の言ったことさえ守れない嘘つきだ。」

彼は立ち上がってシンクのところに行き、胃の内容物を大して辛そうもなく吐き出していた。

「飲んでいようがいまいが、このことを考え始めると吐いてしまう。だから、もう慣れた。」

彼が同情して欲しくて僕に言っているのではないことは分かっていた。
僕は彼に言った。

「そこまで分かっているなら、どうして君はまだ生き続けているのかな。」

彼はシンクに手を突いたまま黙っていた。
僕は続けた。

「生き続けることが何かの罰と思っているなら、もういいんじゃないかな。もう君は充分に罰を受けているよ。」

 

僕らは黙って、次のビールを冷蔵庫から出して飲んだ。

窓から見える葉桜になったサクラの木が街路灯に照らされている。
少しだけ残った花びらがキラキラと光っていた。

窓から入ってくる風は、少しサクラの匂いがした。

 


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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

2009年03月18日

最初の冬、最後の春




 
その年の冬は、とても寒い日が多かったけど、天気の良い日には、僕たちは良く散歩をした。

僕達は、いつもの公園を突っ切って、そのあたりをぶらぶら歩き写真を撮ったり、ベンチに腰掛けて、暖かい缶コーヒーを分け合いながら、野良猫の毛並みの差について議論したりした。

僕はいつもの通りくだらない冗談を言い、彼女はいつもの通り笑っていた。

「あなたって、ホントに面白いよね。そういうくだらないところが好き。」

僕は、彼女の笑顔を見て、とても暖かな気持ちになった。

ニュースは、その年の降雪量は記録的なものだったことを伝えていた。
公園では、花も少し咲き始めていた。
 
僕たちの最初の冬はそうやって、徐々に最後の春へと向かっていた。
 

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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。





作者 “hirobot” について



音楽と写真とモータースポーツを愛する翻訳屋です。




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