アカン人 (ひと)
僕がアカン人 (ひと) に会ったのは、金曜日の夜だった。
彼は甲子園球場からの帰りで、巨人の先発の木佐貫を阪神打線が打ち崩して勝利したことにご満悦だった。
結局、僕は飲みに付き合わさせられることになった。
彼は、ひとしきり完勝のゲームを反芻し、僕と今シーズンのこれからを占った。
僕たちは何軒かハシゴした後、小さなショットバーに入った。
彼は少しだけ笑顔で、誰に聞かせるでもなく、小さな声で話し始めた。
「僕はな、あんまり人から好かれるタイプとちゃうねん。
ほんまに。謙遜やなくて。 ホンマにアカン奴やねん。」
「がんばってるけど、アカンねん。
自分勝手やから、アカンねん。
そうやから、いろいろバチが当ったり、思うように行かへんかったり、
辛い目にあったりするねん。
結局、それは僕がアカン人やからやねん。」
「でもな、『そんなことない、君はアカン人やない』なんて言うてもらいたいとか、思ってもらいたいとか全然思ってないねん。」
「僕はな、『君はホンマにアカン人やけど、それでも私は無条件に君が好きや』って言うてくれる人が欲しかってんな。」
「結局、それもかなわへんかったんは、僕がアカン人やからやと思うわ。」
そう話し終わっても、彼は少しだけ笑顔のままだった。
もうとっくに終電はなくなっていたので、飲み明かそうかと、提案したが、彼は「いや、ちょっと歩いて帰るわ」と言った。
彼の家がどこにあるのかは知らなかったが、それほど近くはないことは分かっていた。
「ほんまに勝手でごめんな。この近くやったら泊まるところも一杯あると思う。ほんまに悪いんやけど。ほんまにごめんな。」
彼はそう言って、何度も振り返ってこっちに手を振りながら、歩いて行った。
僕は、そのままオールナイトの映画館に入って、ずっとアカン人のことを考えていた。
それ以来、彼には会っていない。
彼は今、どうしているんだろう。
今も自分のことを責め続けているのかな。
今でも罰を受け続けているのかな。
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。