暑い夏の終わりに。
・・・
とても暑い日だった。
僕は車をパーキングロットに停めて、大通りに繋がる細い路地を歩いていた。
晴れた日にこの路地を上を見ながら歩くのが僕は好きだ。
路地では両端のビルの形に合わせて細長くなっていた空が、大通りに出た瞬間に開放される。
周りの空気が薄くなったような気がするほど爽快で広い空。
「この景色を見たら、君はなんて言うだろう?」
人を亡くして、一番辛いと思うのは、その答えが聞けなくなること。
でも、君は僕と同じ宇宙に今も存在してくれている。
今は無理でも、また聞けるかもしれない。
それだけで充分だ。
・・・
僕は、街路樹の影に入って、信号が青に変わるのを待っている。
ふと、信号の向こう側で、僕を見つけた君が大きく手を振っているのが見えるような気がして、僕は頭の中が真っ白になった。
信号は青に変わったけど、僕は立ちすくんでいた。
僕は暑い夏の終わりに放り出されたまま、動けずにいた。
・・・
※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。