深夜のカップベンダーの記憶に対する影響について
その日、僕は深夜の高速道路を走っていた。
少し疲れたので、途中のサービスエリアに寄ってコーヒーでも飲むことにした。
こじんまりとしたそのサービスエリアは、夜中ということもあってひっそりとしていた。
カップベンダーコーナーの窓だけが不釣合いなくらい明るく手前の道路を照らしていた。
僕はコーヒーを選び、後ろのポケットに突っ込んだままにしていたコインを引っ張り出して、ベンダーに入れようとした。
そのとき突然、君といた夏の光景がよみがえってきた。
どうということのない光景。
僕たちはカップ ベンダーでアイスコーヒーを買って飲んだ。それだけの記憶。
なのに、細部まで克明に脳内によみがえってくる。
振り返れば本当にそこに君がいるのじゃないか。そんな気配がするくらいに。
今はいつなんだ。僕はここで何をしてるんだ。
回りの風景が急に現実感を失って、僕は自分がどこにも属していない気がした。
僕はあれからずっとここにいる。どこにも行けない。
僕はコインを握ったまま、人影もまばらな冬のサービスエリアのコーヒーベンダーの前で立ちすくんでいた。
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※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。