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サクラの風の頃に



  ・・・

道路に面した側の窓を開けた。
ひんやりとした空気が入ってきて、部屋の中の空気が入れ替わるのが分かる。

缶ビールを 3 本開けたところで、彼は僕に言った。

「僕は自分のことを、思いやりのある人間だと思っていた。とんでもない思い上がりだ。『いつかは分かってくれる。その方が相手のため』 だなんて、自分の考えが正しくて相手の考えより優っている、ということが前提だからね。ホント、とんでもない話だよ。」

僕は黙って聞いていた。彼は続けた。

「結局のところ、面倒な悩み事を切り捨てて、自分が幸せになりたいだけなんだよ。僕はそういう人間なんだ。自分の言ったことさえ守れない嘘つきだ。」

彼は立ち上がってシンクのところに行き、胃の内容物を大して辛そうもなく吐き出していた。

「飲んでいようがいまいが、このことを考え始めると吐いてしまう。だから、もう慣れた。」

彼が同情して欲しくて僕に言っているのではないことは分かっていた。
僕は彼に言った。

「そこまで分かっているなら、どうして君はまだ生き続けているのかな。」

彼はシンクに手を突いたまま黙っていた。
僕は続けた。

「生き続けることが何かの罰と思っているなら、もういいんじゃないかな。もう君は充分に罰を受けているよ。」

 

僕らは黙って、次のビールを冷蔵庫から出して飲んだ。

窓から見える葉桜になったサクラの木が街路灯に照らされている。
少しだけ残った花びらがキラキラと光っていた。

窓から入ってくる風は、少しサクラの匂いがした。

 

  ・・・
※ このブログは「土曜日、公園にて」に掲載した“お話”を修正・加筆したものです。最新の“お話”は「土曜日、公園にて」に不定期で掲載しています。

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